Si Chedeng at si Apple 感想

9月22日、大阪は豊中市で関西クィア映画祭の主催で上映されたフィリピン映画「チェデンとアップル(Si Chedeng at si Apple)」を観てきました。

この映画は来月もう一度、今度は京都で上映されます(10月20日・オールナイト上映作品の一つとして深夜に上映)のでネタバレを気にしつつ感想を書くことになりますが、ところどころ漏れ出してしまう部分があるかもしれませんので何卒ご了承を・・・。

メガホンを取った監督のFatrick Tabadaさん(左)とRae Redさん
関西クィア映画祭は人間の性や社会の中のマイノリティにスポットを当てている明確なコンセプトのある映画祭で、フィリピン映画の「チェデンとアップル」もレズビアンが主人公ということでチョイスされた作品です。
しかしこの映画はいわゆるLGBTについての問題提起を前面に押し出して観客に問うものではなく、フィリピンに暮らすレズビアンが繰り広げるドタバタ騒動の中にそこはかとなく彼らの生き方や悩み、人生への対峙の仕方などが描かれたとてもユーモラスな作品で、全体を覆うエンターテインメントの中にうまく色々なテーマを盛り込んでいます。

画面でLGBTに対する問題を強烈にアピールする映画ではないのでそういう面では物足りなさを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、何百年も文化的バックグラウンドが異なる地域の人たちと密接に交流してきた歴史を持つフィリピン(人)の多様性に対する柔軟で寛容な受け止め方や、やがて私達にも訪れるであろう共生社会のあり方の一つがそこに描かれているという風に感じながらこの映画をご覧いただいたらより楽しい鑑賞体験になるのではと思います。

元カノを探してGO!
物語は病気で夫を亡くした教師のチェデンと夫を殺害してしまった親友のアップルがお互いのパートナーの死をきっかけに、チェデンの昔の恋人を探しにセブに渡り逃避行を繰り広げるドタバタコメディ。

アップルが持つ夫の死体の一部を内緒で処理するセブの病院や船着場での手荷物検査で引っかかりそうになったところを下手な寸劇で乗り切るところなど、フィリピンの「暗部」とされるところがさらっと描かれているところが面白いところ。
昔の恋人探しのため地元のラジオ番組に出演するシーンでは、「女性の名前みたいですね」「ええ、元カノですの」・・・チェデンがレズビアンであることが公の電波に乗ることになりますが、このやり取りに、確かにレズビアンはフィリピンでもマイノリティではあるがそこは執拗につつくほどのことではないというフィリピンの一般社会のLBGTに対する姿勢が描かれている様で何気ない場面ですが興味深いです。
恋人探しの道中、深夜にたどり着いたホテルが満室で地団駄踏んでいる二人にイケメンの好青年が部屋のシェアを申し出る・・・フィリピンの映画では割とよく出てくる「いかにも」なシーンですが、困っている人を放って置けない、色々な物事を融通し合うフィリピンの社会、そうして始まるコミュニケーションの中から物語が生まれていくといったフィリピンらしさが感じられる場面です。この映画一番の「濡れ場」も!(^^)
恋人探しの道中では今フィリピンの一番の闇として世界中からも問題視されている銃社会に関する場面がちらっと出てきますが、この問題に正面から向き合う作品はフィリピンで数多く作られていますが、この映画では日々の糧を得るために裏社会の仕事に従事するしかない人々の様子を面白おかしく表現することによりフィリピンの犯罪の根深さを描き出そうとしているのでしょうか。
そして遂に元カノと再会するシーンでは、伏し目がちな元カノが慎ましく穏やかに暮らしているのをみたチェデンの静かな表情にグッときます。それは恋を過去のものにしようとする時の寂しい気持ちなのか、それとも自分自身も本当はそうでありたいと願っていた人生を歩んでいる元カノを見た安堵感なのか・・・。

随所で発せられる元女優のアップルの決め台詞「それが本当にあなたの望み?」は常に自己のアイデンティティを意識し続けてきたフィリピン人全体に向けられたものと思いますが、外国(日本)で見ている我々への問いかけとも感じられます。

純白のドレスを纏って希望に満ちた明日へ!
チェデンと一緒に自分の過去にもケリをつけたアップル(笑)、ラストシーンはフィリピンならではの華やかな映像で終わります。
フィリピン流のちょっとひねったハッピーエンドが描かれたこの映画はフィリピンの真面目な部分も面白い部分も両方楽しめる秀作です。

喜怒哀楽を豊かに表現しながらも笑えるくらいにポジティブなフィリピン、大昔の小説に書かれた名言
「流れに逆らう小舟の様に絶え間なく過去へと押し戻されながらも前へ前へと進み続ける人々」を体現している
フィリピン像が描かれている様に思いました。

個人の感想なので全体のストーリーや各々のシーンにはまた違った印象を持たれると思いますが、この感想をお読みいただいて作品に興味を持っていただけたら、京都の上映へ足を運ぶきっかけとなりましたら望外の幸せです。

チェデンとアップル、次回の上映は10月20日京都大学西部講堂にて
上映スケジュールやチケットの入手方法など詳しくは
第12回関西クィア映画祭2018公式ウエブサイトにて!
英語版サイトはこちら・・・
12th Kansai Queer Film Festival 2018